2012年01月07日

タロー・宇宙・夢

「ああ、とてもお腹が空いた。」
僕は独り言のように呟いた。
なんだか今日は一日中お腹を空かしていたように感じる。

あんまりお腹が空いていたので、僕は駅前のハンバーガーショップでハンバーガーとポテト、
チキンをしこたま買い込んだ。ドリンクはコーラにした。

駅から歩いて程近い公園のベンチに腰を降ろして、僕はハンバーガーを食べはじめた。
空はまだ青いがそろそろ黄昏時である。

ふと見ると、一匹の白い犬がこちらにやって来る。よくある中型犬だ。
尾っぽをくるりと巻いて耳をピンと立てている。

そいつはにやにやしながら僕の傍までくると、僕に話し掛けた。
「やあ、お願いだから君の食べているハンバーガー、僕に一つ分けてくれないかなあ。」
と彼は言った。
「いやだね。」
と僕は答えた。

なにしろ僕はとてもお腹が空いていたのだ。
見ず知らずの犬などにあげるようなものなど何もない。
僕は黙って、ハンバーガーを食べ続けた。
ポテトをそしてチキンを。それからコーラをゴクゴク飲んだ。

そしてとうとう我慢できなくなって、僕は言った。
「わかったよ、一つあげるよ。だからそんなに恨めしそうにこっちをじっと見ないでくれよ。」
まったくこの犬ときたら、僕が食べてる間じゅうずっと、僕のことを見つめ続けていたのだった。

彼は、にこにこしながら近づいて来て、
「ありがとう。」
とお礼を言って最後のハンバーガーを受取った。

彼は僕のベンチの隣に座ると、器用にハンバーガーの包みを開いて、
パンを食べずに挟んである肉だけ食べた。
「ああおいしかった。実は久々の食べ物なんだ。」
と彼は言って、にやっと笑った。彼は、とても満足そうだった。
「僕の名前は、タロー。宜しくね。」
と彼は言って握手を求めた。僕はしぶしぶそれに応じた。

「ところで、君は夢を持っているかい?」
彼は唐突に聞いた。
「夢?、夢か。」
夢のことなど最近考えたこともない。なんだか毎日とても忙しいのだ。
あっと言う間に毎日が過ぎてゆく。

そんな僕だけど、小さかった頃はそれなりに夢を持っていたような気がする。
そんな僕の態度を知ってか知らずか彼はゆっくりと話しだした。

「僕の夢は、宇宙飛行士になることなんだ。」
聞いた途端、僕は笑い転げてしまった。
「君が宇宙飛行士だって!!」

imagesCA72Y870.jpg

僕はしばらく笑いが止まらなかった。お腹の皮がよじれちゃいそうだ。
だって、どこにでもいそうな平凡な犬のタローが宇宙飛行士に成りたいなんて、
誰が考えたっておかしい。


彼は黙って僕の様子を見ていたが、ゴホンと一つ咳払いをした。
彼はちょっとむっとしたようだった。そして言った。
「君は、我々犬類が君達人類よりも早く宇宙に行ったのを知らないのか。」

「ああ、偉大なる我が同胞、“プーシキンよ!!”」
突然彼は立ち上がって、最敬礼をした。
そして彼はしばらくそのまま動かなかった。

やがて彼は気を取り直したようにベンチに腰を降ろした。
「僕の最も敬愛するプーシキンは、君達のあのガガーリン大佐よりも、
二年も早く宇宙を旅しているのだよ。二年も早くですよ。
最初に宇宙を旅したのは君達人類じゃなくて、我々犬類なのだと言うことを、君は知らないのかい?」

僕は反論したい気持ちになったが、そのまま黙っていた。
「プーシキンが最初の宇宙の旅を終えて帰還した時、ガガーリン大佐は彼を表敬した。
その時彼はガガーリンに向かってこう言ったのだ。『地球は青かったよ、ガガーリン君。』」

「そう、プーシキンはマスコミの使い方がちょっと下手だっただけなのだ。」
と、彼は寂しそうにそう言って空を見上げた。

彼は足をぶらぶらさせていたが、明るさを取り戻して言った。
「でも僕は絶対、宇宙へいくよ。」

彼の目は確信に溢れていた。

彼は今大気圏を脱出するための、新しいロケットの新しい推進システムを開発中なのだそうだ。

「プーシキンが宇宙へ行った頃と今とでは、時代が違うからね。」
と、彼は言って微笑んだ。
「だいぶ長々と話しをしてしまったようだね。すまなかった。」
と言って彼は帰って行った。


あたりはいつしか夕暮れで、彼の後ろには長い影が出来ていた。僕は彼の後姿に向かって叫んだ。
「タロー、頑張れよ。」
彼は振り返って、軽く手を上げ、
「君も。」
と言った。

僕はタローが宇宙服を着て、彼の造ったロケットに乗って旅をしている様子を想像してみた。
タローには、宇宙服がとても良く似合っている、と思った。

おとうさん.jpg

そして僕は自分の夢について考えた。
知っていながら、ずっと胸の奥にしまって、知らない振りをしていた自分自身の夢のことを。
そうして、やっと僕は立ち上がって駅に向かった。
ふと見上げると、一番星が明るく輝いていた。





posted by ピコティ at 23:00| 東京 ☀| Comment(2) | STORY | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
村上春樹。

誰の心の底にもある想い。。。かな。
Posted by ange at 2012年01月08日 01:48
このお話はずいぶんと昔に書いたものですが、
ちょうど白戸家のお父さんも宇宙を旅してるので、
イメージとピッタリで、アップしました。
タローの夢が実現したような気持ちです。

アンジュさんの今年の夢(抱負)はなんでしょう?

夢の実現に向けてレッツ!ゴーです。
Posted by ピコティ at 2012年01月09日 01:08
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